大切なご家族を亡くされ、悲しみの中で葬儀の準備に追われていることと思います。葬儀社との打ち合わせで「湯灌(ゆかん)」や「エンゼルケア」といった言葉が出てきた際、その違いがわからずに戸惑ってしまう方は少なくありません。
「病院できれいにしてもらったけれど、湯灌も必要なの?」
「費用を抑えたいけれど、故人のためにしてあげられることは何だろう?」
このように悩まれるのは、故人様を大切に想うからこそです。
この記事では、湯灌とエンゼルケアの違いや、それぞれの目的、費用相場について詳しく解説します。読み終える頃には、ご自身と故人様にとって本当に必要なケアはどちらなのかを、自信を持って判断できるようになるでしょう。
記事の目次
湯灌とエンゼルケアの目的とは?
湯灌とエンゼルケアは、どちらも故人様のお身体をきれいに整える行為ですが、背景にある目的や意味合いには大きな違いがあります。
それぞれの言葉が持つ本来の意味を理解することで、どちらを選択すべきかの判断基準が見えてくるでしょう。
湯灌は故人の旅立ちを願う「儀式」
湯灌は、古くから日本で行われてきた宗教的な儀式の一つです。単にお身体を洗うだけでなく、現世での苦しみや煩悩を洗い流し、清らかな体で来世へと旅立っていただくための願いが込められています。
かつてはご家族の手で行われていましたが、現代では専門の湯灌師が執り行うことが一般的です。お湯を使って丁寧にお身体を洗い清めるこの時間は、ご遺族にとっても故人様と向き合い、別れを受け入れるための大切なプロセスとなります。
【関連記事】湯灌(ゆかん)とは?費用や流れ、ご家族ができることを分かりやすく解説 | 家族葬のそうえん【公式】 | 東京都日野、町田の葬儀社 | 多摩地区クチコミ評価No.1
エンゼルケアは尊厳を守る「死後処置」
エンゼルケアは、主に「死後処置」としての意味合いが強いケアです。病院で亡くなられた直後に行われることが多く、医療器具の抜去や点滴痕の処置、排泄物の処理など、衛生的な管理を主な目的としています。
闘病によるやつれを目立たなくするために薄化粧を施したり、身だしなみを整えたりすることで、故人様の尊厳を守り、ご遺族が対面した際のショックを和らげる役割も果たしています。エンゼルケアは医療的なケアの延長線上にある処置と言えます。
一目でわかる!湯灌とエンゼルケア5つの違い

湯灌とエンゼルケアの違いをより具体的に理解するために、5つのポイントで比較してみましょう。ご自身が求めているケアがどちらに近いのか、整理しながら読み進めてみてください。
| 比較項目 | 湯灌(ゆかん) | エンゼルケア |
| 目的 | 儀式 宗教的浄化 グリーフケア | 衛生管理 尊厳保持 医療処置 |
| 内容 | 専用浴槽での入浴・洗髪・洗体 | 清拭(体を拭く) 医療器具抜去 簡易メイク |
| 施術者 | 専門の湯灌師・納棺師 | 看護師 病院スタッフ 葬儀社スタッフ |
| 場所 | 葬儀会館 自宅(移動入浴車) | 病院の病室 霊安室 |
| 費用 | 5万円〜10万円(追加オプション) | 数千円〜数万円(治療費やプランに含まれる場合あり) |
違い1:目的(儀式か、医療・衛生的処置か)
先述した通り、湯灌は「儀式」であり、エンゼルケアは「処置」です。湯灌では、末期の水をとったり、左前の着せ替えを行ったりと、作法に則った手順で進められます。
これに対しエンゼルケアは、ご遺体が傷まないようにするための感染予防や、闘病の跡をきれいにするという実務的な側面が重視されます。精神的な満足感を求めるなら湯灌、最低限の身だしなみを整えるならエンゼルケアという分け方ができます。
違い2:内容(お湯を使うか、清拭が中心か)
湯灌の最大の特徴は、お風呂にお入れすることです。専用の浴槽を使用し、シャワーやスポンジを使って全身をくまなく洗い、シャンプーで髪を洗います。お風呂が好きだった故人様である場合には大変喜ばれる内容です。
一方、エンゼルケアでは、アルコールを含ませたタオルやガーゼでお身体を拭く「清拭(せいしき)」が中心となります。病院の設備でお風呂に入れることは難しいため、お湯につかるという体験は湯灌ならではのものと言えます。
違い3:施術者(湯灌師か、看護師・葬儀社か)
誰がそのケアを行うかも大きな違いです。湯灌は、専門的な技術を持った「湯灌師」や「納棺師」が行います。ご遺体の変化に対応する知識だけでなく、ご遺族への配慮や儀式の進行にも長けたプロフェッショナルです。
エンゼルケアは、病院であれば看護師が、ご自宅や葬儀社へ移動した後は葬儀社のスタッフが行います。最近ではエンゼルケアに力を入れている病院も増えていますが、あくまで医療従事者としての業務の一環であることが多いです。
違い4:場所(専用浴槽か、ベッドの上か)
湯灌を行うには、給排水設備や専用の浴槽が必要です。設備が整った葬儀会館で行うか、ご自宅の場合は専用の移動入浴車を手配して行います。畳の上やベッドの脇に浴槽を設置して行うことも可能です。
エンゼルケアは特別な設備を必要としないため、亡くなられた病院のベッドの上や、霊安室などで速やかに行われます。比較的場所を選ばずに実施できるのがエンゼルケアの特徴です。
違い5:費用(オプションか、プラン内か)
費用面でも違いがあります。湯灌は多くの葬儀プランにおいて「追加オプション」として扱われ、相場は5万円から10万円程度です。人手や機材が必要なため、どうしても費用はかかります。
対してエンゼルケアは、病院で行う場合は数千円から数万円程度で、治療費と一緒に請求されることが一般的です。葬儀社が行うエンゼルケア(メイクや着替え)は、基本プランに含まれていることが多く、追加費用がかからないケースもよく見られます。
湯灌がおすすめされる理由
「費用がかかるなら湯灌はしなくてもいいのでは?」と考える方もいらっしゃいます。
しかし、それでも多くの方が湯灌を選ばれるのには理由があります。ここでは、湯灌を行うことで得られる精神的、身体的なメリットについて解説します。
【関連記事】湯灌を行うべきか悩む方へ!儀式の意味や費用相場、流れを分かりやすく解説 | 家族葬のそうえん【公式】 | 東京都日野、町田の葬儀社 | 多摩地区クチコミ評価No.1
生前の苦しみや穢れを洗い清めて送り出すため
湯灌には、現世での辛い記憶や闘病の苦しみを洗い流すという意味があります。長くお風呂に入れなかった故人様に対して、「最後くらいゆっくりお風呂に入れてあげたい」と願うご遺族は多いものです。
温かいお湯でお身体を清めることは、故人様への何よりの供養となります。きれいさっぱりとした姿で旅立ってもらうことは、見送る側にとっても大きな慰めとなるでしょう。
故人とゆっくり向き合う時間を持てるため
葬儀の準備は慌ただしく進んでいきますが、湯灌の時間は比較的ゆっくりと流れます。湯灌師が丁寧にお身体を洗う様子を見守りながら、生前の思い出を語り合ったり、感謝の言葉を伝えたりできます。
場合によっては、ご遺族が足元にお湯をかけてあげるなど、儀式に参加することも可能です。故人様のお肌に直接触れられる貴重な機会であり、心残りのないお別れをするための時間となります。
ご遺体を衛生的に保ち安らかな表情に整えるため
湯灌では、洗体だけでなく、専門的な処置も行われます。死後硬直を和らげるマッサージを行ったり、お顔の血色を良くするためのラストメイクを施したりします。故人様はまるで眠っているかのような安らかな表情に近づきます。
また、ドライアイスの使用による皮膚の乾燥を防ぐための保湿ケアなども行われるため、通夜や告別式の間、きれいなお姿を保つ助けになります。
ご遺族の心を癒すグリーフケアにつなげるため
湯灌の儀式を通して、ご遺族は「故人のためにできる限りのことをしてあげられた」という満足感を得られるでしょう。これは、大切な人を失った悲しみ(グリーフ)を癒やすための第一歩となります。
変わりゆく故人様のお姿をただ悲しむだけでく、きれいになっていく過程を見届けることで、死という現実を少しずつ受け入れ、心の整理をつける手助けとなるのです。
病院のエンゼルケアだけでは不十分?

病院でエンゼルケアを受けた場合、さらに湯灌をする必要性があるのか迷われることでしょう。
結論から言えば、病院のケアと湯灌は役割が異なります。それぞれの特徴を踏まえた上で、必要性を判断することが大切です。
医療機関の処置は衛生面が主な目的
病院でのエンゼルケアは、あくまで医療行為の終了に伴う事後処置です。
感染症の予防や、体液の漏出を防ぐための詰め物など、衛生管理が最優先されます。看護師さんが体を拭いてくれたり、着替えを手伝ってくれたりすることもありますが、時間の制約もあり、儀式的な側面や美容的な観点までのケアは十分に行えないことが多いのが現状です。
葬儀社のエンゼルケアは化粧や着替えが中心
病院から搬送された後、葬儀社が行うエンゼルケアもあります。これは主に、死装束への着替えや、死に化粧を行うことを指します。湯灌のような入浴設備を使用しないため、清拭(体を拭くこと)で済ませるのが一般的です。
お身体の汚れが目立たない場合や、予算を優先したい場合は、この葬儀社のエンゼルケアだけで十分と感じる方もいらっしゃいます。
湯灌はより丁寧で儀式的な意味合いを持つ
湯灌は、病院や葬儀社の通常のエンゼルケアよりも、さらに一歩踏み込んだケアと言えます。お湯を使うことで得られる「清涼感」や「温かみ」は、拭くだけのケアでは得にくいものです。
また、ご遺族が見守る中で行われる儀式としてのプロセスそのものに価値があります。「きれいにする」という結果だけでなく、「きれいにしてあげる時間」を大切にしたい場合は、湯灌を選ぶ意義は十分にあります。
湯灌を検討したい場面とは?
すべてのケースで湯灌が必要なわけではありません。状況や故人様の生前の様子によって大きく変わります。具体的な判断基準を見ていきましょう。
故人が生前お風呂好きだった場合
もし故人様が生前、お風呂や温泉が大好きだったなら、湯灌は最高のプレゼントになるでしょう。長期の入院生活などで、しばらく入浴できていなかった場合はなおさらです。
「最後にお風呂に入れてあげたい」というご遺族の想いは、きっと故人様にも届くはずです。湯灌師の手によってさっぱりとした表情に変わる故人様を見て、ご遺族自身も得られるものがあるでしょう。
長い闘病でやつれたお姿になっている場合
長い闘病生活は、どうしてもお身体やお顔に変化をもたらします。頬がこけてしまったり、顔色が悪くなってしまったりすることもあるでしょう。
湯灌には、そうした変化を緩和する技術も含まれています。含み綿をしてふっくらとしたお顔に戻したり、血色良くメイクを施したりすることで、お元気だった頃の面影に近づけられます。参列される方々に、きれいなお姿でお別れをしてほしいと願う場合におすすめです。
事故などで身体に損傷がある場合
予期せぬ事故などで亡くなられ、お身体に傷や損傷がある場合、ご遺族のショックは計り知れません。湯灌師や納棺師は、特殊な技術を用いて傷を目立たなくしたり、包帯などできれいに覆ったりする処置も行います。
ご遺族が安心して対面できる状態に整えることは、心の傷を癒やすためにも非常に重要となるでしょう。このようなケースでは、専門家による手厚いケアが必要不可欠と言えます。
故人との最期の時間を大切にしたい場合
「納棺までの時間をただ待つのではなく、何かしてあげたい」と考える場合にも湯灌はおすすめです。儀式に参加し、故人様のお肌に触れ、声をかける時間は、かけがえのない思い出になります。
特に、看病などが十分にできなかったと後悔されているご遺族にとっては、最後に手厚いケアを施すことで、気持ちに区切りをつけるきっかけになるでしょう。
後悔しないために知っておきたい注意点

湯灌を依頼する前に、いくつか知っておくべき注意点があります。事前に把握しておくことで、トラブルを防ぎ、納得のいく葬儀を行う手助けになるはずです。
ポイント1:湯灌は必ずしも必須の儀式ではない
まず理解しておきたいのは、湯灌は絶対にやらなければならないものではないということです。宗教的な決まりがある場合を除き、ご遺族の意向で決められます。
「予算的に厳しい」「あまり体に触れてほしくない」という場合は、無理に行う必要はありません。葬儀社から勧められたとしても、ご家族で相談して必要性を判断してください。断ったからといって、故人様への敬意が欠けるわけではありません。
ポイント2:葬儀プランにどこまで含まれるか確認する
見積もりを見る際は、湯灌の費用が含まれているか、それとも別途追加になるかを必ず確認しましょう。「セットプランに含まれていると思っていたら、実は別料金だった」というケースは少なくありません。
また、プランに含まれている「湯灌」が、本格的な浴槽を使うものなのか、清拭のみの簡易的なものなのかも確認が必要です。言葉の定義が葬儀社によって異なる場合があるため、具体的な内容を聞きましょう。
ポイント3:追加費用が発生するケースを把握しておく
基本の湯灌料金以外に、追加費用がかかる場合もあります。例えば、ご自宅で湯灌を行う場合、スペースの確保が難しかったり、エレベーターのないマンションの階上だったりすると、特殊な搬入費用がかかることがあります。
ご遺体の状態によっては、特殊な処置料が加算されることもあります。契約前に、追加費用の可能性について葬儀担当者に確認しておくと安心です。
【関連記事】湯灌の価格はいくら?費用相場と内訳、儀式の流れやマナーを解説 | 家族葬のそうえん【公式】 | 東京都日野、町田の葬儀社 | 多摩地区クチコミ評価No.1
まとめ
この記事の要点をまとめます。
- 湯灌は「儀式」としてお湯で体を清めるもので、エンゼルケアは「衛生処置」として体を整えるものという違いがある。
- 湯灌はお風呂好きだった故人への供養や、やつれた姿を和らげる効果があり、遺族の心のケアにもつながる。
- 必須ではないため、費用(5〜10万円)や故人の生前の希望を考慮し、家族で納得して決めること。
最後のお別れの時間は二度と戻ってきません。形式にとらわれすぎず、故人様とご家族が一番心安らぐ形を選ぶことが、何よりの供養になるはずです。
家族葬のそうえんでは、天然温泉水を使用した「おんせん湯灌」サービスを提供しています。湯灌は単にお身体を清める作業ではなく、故人様とご遺族が最後に心を通わせる大切なコミュニケーションの時間です。生前の思い出を語りかけながら優しくお身体に触れることで、言葉にならない感謝の想いを伝えることができます。
古来より人々の心と身体を癒やしてきた天然温泉のお湯で、人生という長い旅路の疲れを癒し、清めて差し上げる。それは故人様への最後の、そして最上の贈り物となるでしょう。後悔のないお別れのために、清らかな感謝のひとときをお過ごしください。


厚生労働省認定 1級葬祭ディレクター
遺体感染管理士出身の新潟で広告業などを経験し、出産・子育てを経て東京へ移住。
縁あって出合った司会の仕事をきっかけに葬儀業界へ、年間300件のお別れに立ち会い、2021年、株式会社 葬援の取締役に就任。

