大切なご家族とのお別れの際、葬儀社から「湯灌(ゆかん)」を勧められることがあります。お風呂に入れて体を洗う儀式だと説明を受けても、「裸を他人に見られるのは可哀想ではないか」「痩せ細った体を見られるのは恥ずかしい」と躊躇してしまう方は非常に多いです。故人様の尊厳を守りたいと願うからこそ、不安を抱くのは当然のことです。
この記事では、湯灌におけるプライバシー保護の具体的な方法や、依頼する判断基準について解説します。読み終える頃には、湯灌が単なる入浴ではなく、故人様とご遺族の心を癒やすための配慮に満ちた儀式であることが理解いただけることでしょう。後悔のないお別れを選択するための一助となれば幸いです。
記事の目次
湯灌(ゆかん)は本当に恥ずかしい儀式?
湯灌に対して最も多く寄せられる不安は、やはり「裸を見られることへの恥ずかしさ」です。
しかし、現代の専門業者による湯灌サービスは、そのようなご遺族の心情や故人様の尊厳を第一に考えた手順へと進化しています。実際には、肌の露出は極限まで抑えられており、見ているご家族がハラハラするような場面はほとんどありません。ここでは、プロが行う徹底した配慮について具体的に解説します。
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肌をバスタオルで隠し続けるなど配慮してくれる
湯灌の現場において、故人様の肌が全体的に露わになることはほぼありません。
衣服を脱がせる段階から入浴、そして新しい着物や仏衣に着替えるまでの全工程において、必ず大きめのバスタオル等で肌を覆いながら進められます。お湯をかける際もタオルの上から行い、体を洗う際もタオルの中に手を入れて行います。
| 場面 | 一般的なイメージ | 実際のプロの対応 |
| 脱衣時 | 全て脱がせてから移動する | タオルで隠しながら衣服を抜く |
| 入浴時 | 湯船に裸で入る | タオルをかけたままお湯につかる |
| 洗体時 | 肌をこすって洗う | タオルの下や隙間から丁寧に洗う |
| 着衣時 | 裸の状態から着せる | 袖を通す瞬間まで肌を露出させない |
このように、確立された技術によって、立ち会っているご家族であっても故人様の裸を目にすることはほとんどありません。
「恥ずかしい思いをさせたくない」というご家族の気持ちを、納棺師(湯灌師)が深く理解しているからこその標準的なマナーです。
経験豊富なスタッフの細やかな気配りがある
湯灌を行うスタッフは、通常2名体制(多くは男性1名・女性1名、または女性2名)でチームを組みます。スタッフは技術的な訓練だけでなく、ご遺族への配慮や視線の向け方についても研修を受けています。
作業中は故人様の肌を見ないよう自然に視線を外したり、ご遺族が立っている位置からは死角になるよう自らの体で壁を作ったりと、細やかな配慮が行われます。
また、ご遺族に対しては「足元の方からお湯をかけてあげてください」といった誘導を行う際も、頭部や顔が見える位置を案内し、肌が見えそうな角度には立たせないようコントロールします。
もし傷跡や手術痕など、どうしても見られたくない(見たくない)箇所がある場合は、事前にスタッフへ伝えておくことで、その部分を特に厚く覆うなどの個別対応も可能です。
湯灌が行われる具体的な手順

「見えない配慮」があることは分かっても、実際にどのような流れで儀式が進むのかを知らなければ不安は解消されません。
湯灌は単に体を洗うだけでなく、現世の汚れや苦しみを洗い流し、来世への旅支度を整えるという宗教的・精神的な意味合いも強く持っています。
ここでは、専用の浴槽を使用する一般的な湯灌の流れと、その中でのご家族の関わり方について説明します。
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清拭から着替えまでの一連の流れ
湯灌はご自宅の部屋や葬儀会館の一室に、専用のポータブル浴槽を持ち込んで行われます。給排水の設備もすべて業者が用意するため、ご家庭のお風呂場を使うわけではありません。
| 手順 | 内容 | 所要時間目安 |
| 1.準備・マッサージ | 浴槽の設置後、硬直を解くマッサージを行う | 約15分 |
| 2.移動・脱衣 | 布団から浴槽へ移動し、肌を隠して脱衣 | 約10分 |
| 3.入浴・洗体 | シャンプーやボディソープで全身を洗う | 約20分 |
| 4.着替え・化粧 | 白装束などに着替え、顔色を整える | 約30分 |
| 5.納棺 | 棺の中に故人様を納める | 約15分 |
ご遺体は死後硬直により関節が固くなっていることが多いですが、お湯に入る前にプロが優しく関節を揉みほぐします。これにより、強張っていた表情が和らぎ、着替えもスムーズに行えるようになります。
この丁寧なプロセスで、ご家族は「大切に扱われている」という実感を持てます。
逆さ水の作法と遺族の立ち会い方
湯灌の中で、ご家族が直接参加できる重要な場面が「逆さ水(さかさみず)」の儀式です。通常のお風呂とは異なり、水にお湯を足して温度を調整する(ぬるくしていく)という、葬儀特有の作法です。
スタッフの案内のもと、ご遺族が順番に故人様の足元へお湯をかけてあげます。
この儀式は強制ではありませんが、多くのご遺族が参加されます。直接肌に触れて洗うわけではなく、柄杓(ひしゃく)でお湯を注ぐだけの簡単な所作です。
「いいお湯加減だよ」「気持ちいいね」と声をかけながら行うことで、ただ見ているだけの時間よりも、最後のお世話をしてあげられたという満足感が生まれます。
もちろん、辛くて見ていられない場合や、体調が優れない場合は退席していても問題ありません。スタッフは常にご遺族のペースに合わせて進行します。
遺族に湯灌が喜ばれる理由
恥ずかしさへの懸念を超えて、多くのご遺族が湯灌を選び、実施後に「やってよかった」と感じるのには明確な理由があります。
長い闘病生活や病院での処置による変化を、生前の元気だった頃の面影に近づけることができるのが湯灌の大きな価値です。
温浴効果と死化粧によって安らかな表情へ整えてあげられるから
湯灌の仕上げに行われる死化粧(エンゼルメイク)は、専門技術を持った納棺師が行います。
病院で行われるエンゼルケア(死後処置)も丁寧ですが、納棺師のメイクはさらに一歩踏み込み、顔色の悪さや頬の痩け(こけ)を目立たなくする高度な技術を用います。
男性であれば髭をきれいに剃り、女性であれば生前愛用していた口紅やファンデーションを使用することも可能です。
お湯に浸かることで血行が一時的によくなり、肌に赤みが差すこともあります。そこにプロのメイクが加わることで、まるで眠っているだけのような安らかな表情に近づきます。
「苦しそうな顔が頭から離れなかったけれど、湯灌のおかげで穏やかな顔でお別れできた」という声があるのは、この視覚的な変化がご遺族のグリーフケア(悲嘆のケア)に直結しているからです。
闘病の痕跡を優しく清め労わる特別な時間になるから
長い入院生活でお風呂に入れなかった故人様にとって、最期のお風呂は最大の供養になります。また、衛生面でのメリットも非常に大きいです。
ご遺体は時間の経過とともに皮膚の状態が変化したり、特有の臭いが発生したりすることがあります。湯灌できれいに洗い清め、ドライアイスで適切に処置をすることで、これらの変化を遅らせられます。
特に、皮膚が弱くなっている場合や、点滴による浮腫(むくみ)がある場合など、ご家族だけでは対処が難しい体のケアも、プロが適切な処置を施します。
体液の漏れなどを防ぐ処置も同時に行われるため、通夜や告別式の際、参列者の方々にもきれいな状態で対面してもらえます。物理的な「清潔さ」は、見送る側の精神的な「清々しさ」に繋がります。
湯灌における恥ずかしさ以外のデメリットや注意点

ここまで湯灌のメリットや配慮について解説してきましたが、検討する上ではデメリットや現実的な制約についても知っておく必要があります。
恥ずかしさは解消できたとしても、スケジュールや予算の都合で実施が難しいケースもあるからです。納得して判断するために、以下のポイントを確認してください。
湯灌には1時間から1時間半ほど時間が必要になる
湯灌には準備から片付けまで含めて、1時間〜1時間半ほどの時間が必要です。葬儀の日程が過密な場合、時間の確保が難しいことがあります。
例えば、亡くなってから通夜までの時間が極端に短い場合や、火葬場の予約時間の関係で出発を早めなければならない場合などです。スケジュールに余裕がない中で無理に湯灌を組み込むと、ご遺族自身が慌ただしくなり、ゆっくりとお別れをする時間が削がれてしまう恐れがあります。
葬儀担当者と相談し、通夜の前に十分な時間が取れるかどうかを確認しましょう。場合によっては、湯灌を省略し、時間を優先するという判断も立派な選択の一つです。
別途湯灌料金が加算される
湯灌は、基本的な葬儀プランには含まれていないことが多く、オプションとして追加費用が発生するのが一般的です。費用相場は地域や業者によって異なりますが、おおよそ以下の通りです。
| サービス内容 | 費用相場(目安) | 備考 |
| 湯灌(浴槽使用) | 5万円〜10万円 | スタッフ2名、専用車・浴槽手配含む |
| 古式湯灌(拭き上げのみ) | 3万円〜5万円 | 浴槽は使わず、アルコール等で清拭 |
| エンゼルケアのみ | 1万円〜3万円 | 着替えや化粧のみ(葬儀プランに含まれる場合あり) |
決して安い金額ではありません。「お風呂に入れるだけで数万円」と考えると高く感じるかもしれませんが、特殊な機材の搬入や専門スタッフ2名の人件費、技術料を含んだ価格です。
予算オーバーになるようであれば、無理に実施する必要はありません。ご自身の経済状況と、故人様にしてあげたいことのバランスを考えて決めましょう。
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湯灌を依頼するかどうかの判断基準

湯灌を行うべきか、まだ迷われている方のために、判断の助けとなる基準を整理します。「恥ずかしいかどうか」だけでなく、故人様の背景やご遺体の状況を総合的に考えることで、後悔のない決断ができます。
ポイント1:故人の生前の意向や入浴習慣を考慮する
最も尊重すべきは、故人様自身のご性格や希望です。もし生前にお風呂が大好きで、入院中も「お風呂に入りたい」と漏らしていたのであれば、湯灌は最高の贈り物になります。多少の恥ずかしさがあったとしても、ご本人の「さっぱりしたい」という願いを叶えることには大きな意義があります。
逆に、生前から極端に恥ずかしがり屋だった方や、「死んだ後は誰にも体を見られたくない」と言っていた方の場合は、湯灌を控えるという選択も愛です。
また、ご家族自身が「他人が触れることにどうしても抵抗がある」と感じる場合も、無理をする必要はありません。故人様とご家族、どちらにとってもストレスの少ない方法を選ぶのが正解です。
ポイント2:ご遺体の状態から湯灌が可能か確認する
ご遺体の状態によっては、湯灌を強く推奨される場合があります。例えば、夏場で腐敗の進行が心配される場合や、長期間の闘病で皮膚の状態が良くない場合などです。湯灌による洗浄と処置は、ご遺体をきれいに保つ効果が高いため、告別式まで数日空くようなケースでは実施した方が良い結果になることが多いです。
一方で、病院ですでにきれいに処置(エンゼルケア)が済んでおり、死後硬直も少なく表情が穏やかな場合は、必ずしも湯灌が必要ないこともあります。葬儀社の担当者は多くのご遺体を見てきているため、彼らに「今の状態で湯灌は必要そうですか?」と率直に意見を求めてみるのも一つの手です。
湯灌以外に体をきれいにする方法
「湯灌でお風呂には入れたくない(または予算がない)けれど、体はきれいにしてあげたい」という方には、代替案があります。湯灌か何もしないかの二択ではありません。
状況に合わせて、中間的なケアを選択することも可能です。
簡易的な清拭(せいしき)による清浄
浴槽を使わず、温かいタオルやアルコールを含ませた脱脂綿で全身を拭き清める方法を「清拭(せいしき)」と呼びます。葬儀社によっては「古式湯灌」と呼ぶこともあります。
| 比較項目 | 湯灌(入浴) | 清拭(拭き上げ) |
| 方法 | シャワーとお湯で洗う | 蒸しタオル等で拭く |
| 肌の露出 | 配慮はあるが全身を洗う | 服を着替えさせる際のみ |
| 所要時間 | 60分〜90分 | 30分〜50分 |
| 費用 | 高め | 比較的安価 |
清拭であれば、大掛かりな機材の搬入もなく、短時間で済みます。肌の露出も着替えの一瞬だけに留められるため、恥ずかしさを懸念するご家族にとっては心理的なハードルが低い選択肢と言えます。
体を拭くだけでも、十分に気持ちを込めたお世話になります。
病院のエンゼルケアと湯灌の比較
多くの場合、病院で亡くなると看護師さんが体を拭き、詰め物などの処置をしてくれます。これをエンゼルケアと呼びますが、これはあくまで「医療的な処置の延長」であり、最低限の衛生保全と整容が目的です。
一方、葬儀社が行う湯灌や納棺の儀式は、「宗教的な儀式」および「遺族のための時間」という意味合いが強くなります。病院のケアで十分きれいだと感じるなら、そのまま納棺に進んでも問題ありません。
しかし、「病院の浴衣のままでは可哀想」「もっとふっくらした表情にしてあげたい」と感じるなら、葬儀社のサービスを利用する価値があります。病院のケアは「処置」、湯灌は「儀式」と捉え、今の気持ちにどちらが必要かを考えてみてください。
まとめ
湯灌における「恥ずかしい」という不安に対する真実と、判断のためのポイントを解説してきました。最後に、この記事の要点を振り返ります。
- 湯灌では、肌をバスタオルで隠し続けてもらえるため、全裸になることはない
- 専門スタッフは視線のコントロールやマナーを徹底している
- お湯に浸かることで血色が戻ることもあり、死化粧によって安らかな表情でお別れができる
- 費用や時間がネックになる場合は、体を拭く「清拭」という選択肢もある
湯灌は、故人様の体を洗うだけでなく、遺されたご家族が「してあげられる最後のお世話」を通して心の整理をつけるための時間でもあります。恥ずかしさへの対策は万全ですので、もし迷われているなら、担当者に「肌を見せないよう特に配慮してほしい」と一言添えて相談してみてください。きっと、その想いに寄り添った温かい式を提案してくれるはずです。
家族葬のそうえんでは、天然温泉水を使用した「おんせん湯灌」サービスを提供しています。湯灌は単にお身体を清める作業ではなく、故人様とご遺族が最後に心を通わせる大切なコミュニケーションの時間です。
生前の思い出を語りかけながら優しくお身体に触れることで、言葉にならない感謝の想いを伝えることができます。
古来より人々の心と身体を癒やしてきた天然温泉のお湯で、人生という長い旅路の疲れを癒し、清めて差し上げる。それは故人様への最後の、そして最上の贈り物となるでしょう。後悔のないお別れのために、清らかな感謝のひとときをお過ごしください。


厚生労働省認定 1級葬祭ディレクター
遺体感染管理士出身の新潟で広告業などを経験し、出産・子育てを経て東京へ移住。
縁あって出合った司会の仕事をきっかけに葬儀業界へ、年間300件のお別れに立ち会い、2021年、株式会社 葬援の取締役に就任。

